ヘッジファンド通信

絶対収益を追求するヘッジファンド

絶対収益とは?

前回、ヘッジファンドの本来の運用は『リスクを抑えながら、“絶対収益”を追求する運用手法』であるということについてお話しました。ここでは、その絶対収益について掘り下げてみましょう。絶対収益とは、一言でいうと、「相場の変動に関わらず絶対に収益を上げる」ことを目指す運用です。相対収益を目指すのであれば、平均点となる運用のインデックス運用を相対的に上回ればよいのですが、絶対収益では、相場の値動きに関わらずプラスの収益を上げることが求められます。
もちろん、相場に絶対はありません。必ず収益が上がるのであれば、「リスクフリーレート」と言われる短期金利(イメージで言うと、普通預金の利息です。)になります。満足できる収益を上げるためには、リスクを全く取らない運用にするわけにはいきません。
絶対収益という場合、相場の上がり下がりの影響を受けないポジションにしながら、確実に値上がりする銘柄を買い、確実に値下がりする銘柄を売ることが求められます。すなわち、相場が上がっているときに利益が出るだけでなく、相場が大きく下げる局面においても利益を出さなければなりません。そのような運用の例として裁定取引があります。  

絶対収益を追求する裁定取引

ここでは、相場観に関係なく収益を上げることを目指す裁定取引について説明します。裁定取引は、アービトラージ取引( Arbitrage Trade)とも呼ばれ、“アーブ”と略されることもあります。裁定取引は、市場の不均衡(歪み)を利用して、同じ資産の異なる市場間での価格差を利用するなどして、基本的に、同一または類似した資産が異なる価格で取引されている状態を見つけ出し、安い方を買い、高い方を売る取引を同時に行います。
例えば、3か月後に現物を保有する方法として、①今、現物を買って3カ月間持ち続ける方法と②今、3か月後を満期日とする先物を買って、満期に現物を受け取る方法(「現引き」といいます。)がある場合について考えます。基本的に①と②は同じコストで買うことになるはずですが、先物に大口の買い注文が入ったことで一時的に先物価格が理論値よりも高い、割高な価格になったと仮定します。この時、①現物の買いと②割高な先物の売り取引を同時に行えれば、利益を実現することができます。3か月後の先物の期日に、持っている②の現物を渡す(「現渡し」といいます。)ことで、ポジションをクローズすることができれば、先物の売値と現物の買値の差額に各種手数料などのコストを引いた分が利益になるわけです。
こうした取引で利益を上げるためには、取引コストを上回る水準の割高・割安水準を見つける必要があります。また、現物と先物を同じタイミングで行う必要があるため、理論値との乖離幅を瞬時に計算して、売買を同時に約定するシステム取引の手法を開発する必要があるかもしれません。日々の取引で利益を上げようとするデイトレーダーは、割高・割安な注文を見つけたら、まずその注文を約定させて、タイミングを見て反対売買を行い、利益を確定させるかもしれません。しかしその場合は、反対売買で利益を確定する間に相場が不利な値動きをする場合もあります。売買のタイミングによっては、損失が発生するリスクもあります。 

市場の不均衡(歪み)とは?

裁定取引において、同じ資産で割高なタイミングでの売りと、割安なタイミングでの買いを同時に等しい量で約定できれば、確実に利益を上げられるのですが、そうしたチャンスに恵まれるチャンスはめったに訪れません。訪れたとしても、小口の約定しかできないため、大きな利益を上げることは難しいです。割安な売り注文は、通常少額の注文で、大量に買いが入れば、値段はすぐに上がってしまいます。割安な売り注文を狙うライバルは市場に多くいるので、すぐに消えてしまうことも多いです。
ちなみに昔々、ある証券会社が、ある株式の朝一番の注文(「寄り付き注文」とか、「寄り注文」といいます。)で「61万円で1株の売り」と注文すべきところを「1円で61万株の売り」と誤って発注してしまいました。極めて稀にしか発生しないケースですが、90万円前後で寄り付く気配だった株式を1円という安値で61万株まで売る注文が突如として市場に現れました。発注者が誤注文に気付いて取り消されるまでの間、市場実勢から離れた売り注文を大量に安値で買うことができました。市場での取引は相手の顔が見えないため、この売り注文には何か裏があるのではないかと心配になった人も多くいたようです。勇気を持って理論値より大幅に安い価格で買い注文を入れたデイトレーダーなどは、大きな利益を上げることができたようです。システム取引では、機械的に理論値からの乖離幅で売買の判断をしますから勇気はいりません。(現在では、市場実勢から大きく離れた注文は値幅制限があるため、大量に約定することはできなくなっています。)
更に昔の話になりますが、1985年10月に日本国債(Japanese Government Bondの略称でJGBとも呼ばれます。 )の先物の取引が開始された時、多くの証券会社が寄り付き注文で、成り行きの買い注文を“ご祝儀”として発注しました。先物取引は買い注文と売り注文が必ず同数で約定します。「ご祝儀なんだから、売り注文じゃなく買い注文だろうと考える人が多かったため、理論価格を大幅に上回る買い注文が入りました。このケースでは、売り注文を出して約定していれば、確実に利益を上げられた状況が暫く続いたようです。
上の2つは極めてまれなケースですが、市場実勢から離れた注文が市場に出ることは多くあるので、それを機械的にシステムが見極めて約定していくことで、ある程度確実に利益を上げることができたりします。
実際の裁定取引は、そうした偶然の注文を取りに行くものではなく、現物と先物、現物とオプション、先物とオプションなど、異なる市場の売買を組み合わせて、値幅の少ない利益を積み上げて確実な収益を目指すことになります。

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