ヘッジファンド通信

為替リスクのないヘッジファンド

ヘッジファンドと為替リスク

前回は、株価などの相場変動に対してリスクを抑える市場中立型のヘッジファンドの運用について説明しました。今回はヘッジファンド投資における為替変動リスクについて考えてみましょう。
そもそも、国内のヘッジファンド運用会社で日本円による運用を行うのであれば、円高・円安の為替リスクを心配する必要がありません。国内にも素晴らしいヘッジファンドの運用会社があるとは思いますが、残念ながら、海外の著名なヘッジファンドと比べると運用資産の規模や歴史が圧倒的に違います。運用実績が10年程しかない場合、リーマンショックのような緊急事態に対応した経験がないのが気がかりです。リーマンショックの際は、多くの投資家がリスク資産の運用資金を引き揚げて、国債などの安全資産にシフトする動き(「質への逃避」と言われました。)が大規模で発生しました。どんなに運用実績が良いファンドであっても、リスク資産は全額引き出す動きもあったと聞いています。海外の著名なヘッジファンドは、リーマンショックのような荒波を乗り越えた経験を持っています。(淘汰されてしまったヘッジファンドもあったと聞いています。)
海外の著名なヘッジファンドは、基本的に米ドルで運用しています。ユーロで運用する著名なファンドもありますが、海外の著名なヘッジファンドで日本円による運用を行っているケースは多くありません。
日本円で購入し、日本円で償還されるファンドもありますが、多くの場合、受領した日本円の資金をすぐにドル転して米ドル建てで運用します。償還や解約の際に米ドルで運用している資金を円転して償還金を払うところが多いのではないでしょうか。 
そのため、買い付けた時の為替レートよりも解約する時の為替レートが円安になっていれば、より多くの円を受け取ることができます。逆に円高になっていると、受け取る円価額が少なくなって、為替差損が発生します。
海外のヘッジファンドで運用する場合、為替変動リスクにさらされることになります。

為替差損と為替差益

外貨建てのヘッジファンドなどの外国証券に投資する場合、基本的に将来の円の価値がどうなるか、円の為替レートの見通しを立てることが重要です。ヘッジファンドのように長期運用を行う投資では、投資先の通貨が強くなるかどうかを投資判断の材料にする必要があるわけです。
例えば、一定の期間において米ドル建ての資産運用で5%の収益をあげることができたとします。換金しようとするときの為替相場が円高になっている場合、為替差損が運用収益を上回ると、最終的な運用で元本割れとなるケースもあるのです。
具体的に考えてみましょう。2024年6月のドル円レートは一時、1米ドル=160円水準になりました。2024年8月の為替レートは一時円高になって1米ドル=145円レベルになりました。1米ドル=160円の水準で投資を始めて145円の水準で換金した場合、1ドルあたり15円の為替差損が発生します。利回りでいうと、9.375%( ▲15÷160 )という大きな為替差損が発生してしまいます。
米ドルベースで5%の運用実績であったとしても(1+0.05)×(1-0.09375)= 0.9515625 となり、資産運用全体で考えると、4.844%のマイナスになります。その他にも運用に係る手数料、外国為替に係る手数料などのコストもかかりますから、とても残念な結果となってしまいます。(運用の世界では、失敗という言葉は使わず、“残念”を使うようです。)
海外でヘッジファンドの運用をする場合、基本的に長期間に渡って運用することになります。そのため、現在の円相場が歴史的に見て円高水準なのか、円安水準なのかの足元を認識します。その上で、長期的にみて現在の為替水準より円高になるか、円安になるかを予測する必要があります。為替相場を予想するには、日本の国力、日本経済、日本の物価など、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件を示す指標)が長期的にどうなるかを考えて、為替がこれから円高に転じるのか、円安がさらに進むのかを予想するわけです。 

円建てのヘッジファンド

日本で買える海外の著名なヘッジファンドの中には、円建てのファンドもあります。円建てというのは、運用会社に日本円を送金して、解約金や償還金も日本円で受け取れるヘッジファンドです。月次レポートも、すべて円ベースの利回り等が記載されていて、為替リスクを心配する必要がありません。そのような円建てのヘッジファンドについて考えてみましょう。
基本的に円建てのヘッジファンドは、為替リスクがないように、為替変動リスクをなくすような運用を行います。そうしたファンドは多くの場合、米ドル建てのヘッジファンドから派生させるものが多く、米ドル資産を適宜、円転するのですが、どのようにして為替差損が発生じないようにするのでしょうか。
多くのヘッジファンドは月次で運用状況の報告、情報開示を行います。月末時点の時価評価の額を計算する必要があるわけです。ちなみに月末時点の時価評価額のことを、純資産総額、英語で Net Asset Value なので 、略してNAV(ナブ) と呼びます。多くの場合、円建てファンドは、月末にドル資産を円転します。円転する為替レートには、為替予約を使って月初または前月末に為替予約を行ったレートで事前に確定させています。簡単に言うと、月末に米ドルベースのNAV残高が確定したら、翌月末に米ドルを売って日本円を買う金額を決めて、円転するための為替レートを予約(確定)するわけです。
 為替予約の仕組みと円建てのマーケットニュートラルのヘッジファンドについては、次回ご説明します。

円建てのヘッジファンドに関しては、以下のリンクもご覧ください。

https://airssea.co.jp/toppage/fund/fund10