円建ての市場中立型ヘッジファンド

為替予約について
為替リスクのない市場中立型のヘッジファンドについて考える前に、先物の為替レートについてご説明します。為替レートは。直物レート(「じきもの」と呼んで“直ぐに両替する場合のレートです。)と先物レート(未来の日付を決めて両替するレートです。)があります。海外旅行で使う米ドル紙幣を日本円から両替する場合では、すぐに外貨を受け取れるので、直物取引です。一般的に新聞やテレビで報道される為替レートは、すべて直物の為替レートです。
先物の為替取引は、貿易代金の支払いや受取りのように、将来、授受する外貨について円貨額を確定するために行う取引です。先物取引は必ず、将来の両替する日付を決めてから「先物レート」が決まります。金利を考慮する必要があるから、現時点から何日分の金利を加味するかを考える必要があるからです。
前回にご説明した外貨で運用するヘッジファンドを日本円にするケースでも「先物レート」を使うことになります。その先物レートですが、直近の為替レート(直物レート)と受け払いする日付(現在から何日後か)が決まると自動的に決まります。金利水準で決まるので、ディーラーやアナリストがレートを予想して決めるわけではありません。
現在のドル円の先物レートは、自動的に円高の水準となります。そのため、為替予約をすると必ず為替差損が発生します。たとえ為替レートが円安傾向で推移していたとしても、為替予約のレートは2つの通貨の金利差で決まります。円の金利水準がドル金利よりも低い現状では、将来のドル円の先物レートは、直物の為替レートよりも必ず円高になるわけです。
市場中立型の外貨運用ヘッジファンドは、為替予約をすることで円ベースの受取金額が減り、確定する利回りが外貨による運用よりも低くなります。為替リスクを減らすためには、利回りをあきらめる必要があるわけです。
為替ヘッジによる利回りの低下
外貨運用で為替予約をすると、為替差損が発生して利回りが低下することについて具体例でみてみましょう。計算をわかりやすくするために、現在の為替の直物レートを1ドル = 150円、1か月物の金利を日本円がゼロ金利で0%、米ドルが4%とします。この状況で10万米ドル(=1,500万円)の運用をする場合で考えます。(わかりやすくするために、外国為替や資産運用に係る手数料をゼロとします。)
1,500万円の資金は、日本円で運用するとゼロ金利なので利息が付かず、1か月後も1,500万円のままです。それに対して直物レートを使って10万米ドルに両替して、外貨で運用する場合(“円投”といいます。その逆は、“円転”です。)、1か月後に100,333米ドルになります。(100,000 ×(1 + 0.04 ÷ 12 )= 100,333、1か月分の金利は0.333…%です。通常は365を分母、日数を分子にする分数をかけますが、わかりやすくするために1か月分ということで12で割りました。)
為替予約をして先物為替レートで日本円に戻す場合、先物レートは、本来のゼロ金利の運用になるように収斂します、すなわち、1か月後のドル円の先物レートは、100,333米ドル=1,500万円となる1ドル = 149円50銭という円高水準になるのです。1ドルの価値が割り引かれて安くなるので、ドル安・円高というわけです。(これは、150円を0.333…%だけ割り引いた金額です。)
1か月後のように運用期間が決まれば、為替レートの2通貨の国債等を利用してリスクフリーの運用ができ、1か月後の運用額が確定して、その金額の比率が先物の為替レートになるわけです。
もしも、1か月後の先物為替レートが直物と同じ1ドル = 150円のままだとしてみましょう。“円投”をすれば、日本円をドル転すれば確実に0.333…%の運用益が出て、ゼロ金利を上回る運用ができます。そのため、日本円の運用をしたい投資家は、直物で円売り・ドル買い、先物でドル売り・円買いをします。すると直物でドルの価値が上がりドル高の1ドル = 150円10銭といった水準になっていきます。逆に先物では、ドルの価値が下がってドル安の1ドル = 149円90銭というような動きになります。為替の先物レートは直物に比べて、金利差の分だけ円高になる水準に落ち着くことになるのです。
このように、為替の先物レートが金利差によって決まることを、金利平価説( Theory of Interest Parity)と言ったり、為替レートの金利裁定( Interest Arbitrage)が働くなどと言ったりします。
結論は、現在の日本の金利水準が米国より低い状況であれば、為替予約を使って為替の変動リスクをなくそうとすると、為替差損が発生して利回りが低下するのは避けられないのです。
通貨を選べるヘッジファンド
ここ何回かのブログで、ヘッジファンドの本来の運用は、市場変動リスクをできる限り抑えて、絶対収益を追求する運用だということについて説明しました。本来の意味のヘッジファンドの運用で抑えようとする相場変動のリスクは、株価のような価格変動だけでなく、為替変動のリスクも含まれます。為替変動リスクを抑える方法は、為替予約を使うのが一般的で、日本円の金利が米ドルの金利よりも低い現状では、同じ運用を行っても、円ベースの利回りがドルベースの利回りより金利差の分だけ低くなる。ここまでのブログをまとめてみましたが、ご理解頂けたでしょうか。
「ヘッジファンドとは何ですか?」の回でご説明しましたが、日本ではヘッジファンドを明確に定義する法律がなく、実に様々な運用をするヘッジファンドが存在しています。玉石混交のヘッジファンドを選ぶにあたっては、まずは王道ともいえる市場中立型で絶対収益を追求するリスクの低いヘッジファンドを選ぶのが良いのかと思います。海外の一流のヘッジファンドの中には、為替予約などを使って、日本円での運用もできる“優れもの”があります。また、運用している途中で運用通貨を変更できる“通貨選択制”を採用しているヘッジファンドもあります。通貨選択制では、通貨を変える際に買付手数料などのコストがかからないものもあります。
どの通貨を選べばよいかについてですが、基本的に金利水準が高くて、強くなる(価値が上がっていく)通貨がよいです。名目ベースの金利が高くても、物価上昇が続いていて、実質金利でいうと高くない通貨は避けるべきです。強くなる通貨は、その通貨が使われる国の経済が順調に発展すると見込まれる通貨です。MAGA( “Make America Great Again” )の米ドルや、大きな経済圏を構成しているユーロ、政策金利が上がって景気回復も期待できる日本円……などなど。ご自身で分析してみて、どの通貨が強くなるかを予想して通貨を選ぶのが良いと思います。
ヘッジファンドで運用をしてみたいと考える投資家は近年とても増えています。どのようにしてヘッジファンドの運用を始めればよいかわからない方は、電話や面談によって直接、説明を受けたり、質問したりできるコンサル営業をしている証券会社などを探すのが良いと思います。
メールやチャットなどの文書でやりとりができると便利な面もありますが、このところ投資詐欺も見受けられるので、注意が必要です。メールアドレスだけでなく、住所と電話番号が記載されているホームページから、信頼のできる証券会社を探してみてはいかがでしょうか。
通貨選択制で市場中立型の運用をするヘッジファンドに関しては、以下のリンクもご覧ください。
https://airssea.co.jp/toppage/fund/fund1
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