ヘッジファンドの時価評価について

運用状況を確認するタイミング
ヘッジファンド投資がどのような運用なのかについての説明を続けます。これまでヘッジファンド投資は、まとまった金額が必要であること、私募の金融商品であるために運用内容等の情報の取得に制約があることについて説明しました。今回は、運用情報の制約のうち、運用状況に関する情報の提供頻度についてお話します。結論から言うとヘッジファンドの運用状況に係る情報は、月次ベースとなり、タイムラグも発生します。月に1度の運用実績を少し時間をおいてから知ることになります。
運用状況の報告について、公募の投資信託と比較してみましょう。公募の投資信託は、通常、毎営業日にその日の時価を示す基準価額が公表されます。公募投信の基準価額に関しては、そのファンドに投資していない個人の方でもインターネットを通じて知ることができます。一方でヘッジファンドは私募の金融商品であるため、そのファンドを投資していないと運用状況についての情報を入手することができません。投資している場合も日々の運用教協を知ることはできません。
公募投信の場合、日々の運用状況がわかるだけでなく、その基準価額によってロスカットしたり、追加投資したり、売買を臨機応変に行うことができます。このところトランプ大統領の関税に係る対応が臨機応変というか、コロコロと変わるので、相場は大きく変動しています。基準価額が毎営業日に公表されることで、自分の投資成績が毎日明らかになります。毎日の収益状況によって投資の組み替えもフレキシブルに行えます。
私もiDeCoをやっていて、目まぐるしく変動している公募投信の値動きをインターネットで見ては一喜一憂しています。でも「高値のタイミングで一旦、定期預金にスィッチングして、値下がり後の反転するタイミングで投信を買い直して…」なんて芸当はできないので、「また損が増えた!」「ちょっと戻した!」なんて喜んだり、落ち込んだりするだけです。どうせすぐに売るのでないなら、毎日、基準価額なんて教えてくれなくてもいいのになぁ…とも思ってしまいます。(昨年頃までの上げ相場の時は、また、含み益が増えたなんて、いつもニコニコしていた時もあったんですけどね。)
日々の損益状況がわかるということは、デイトレードが好きな投資家にとっての利便性は高いです。しかしながらiDeCoのように老後資金を長期にわたって運用している投資家にとっては、別に売買(iDeCoでは、スィッチングと言って、やろうと思えばネットで簡単にできます。)するわけではないので、毎日の情報提供はいらない気がします。
時価評価にかかるコスト
投資家に運用状況を知らせることは、運用会社にとっては大事なミッションであり、投資家も運用状況を日々知ることのメリットがあることに間違いはありません。しかしながら、時価を算出するためには結構なコストを負担しなければなりません。投資対象の資産の現在価値を決めるのは、たいへんな作業が必要です。
投資対象はその日の終値が公表される上場株式ばかりではありません。終値が公表されない債券などは、金利の変動によって将来受け取るキャッシュフローの現在価値が変わるため、毎日、時価が変動します。その日に売買したファンド内の資産の評価も大変です。売買にかかった手数料もファンドの現在価値に影響します。外貨の資産に関しては、いつの時点の為替レートを適用するかなども考えなくてはいけません。基準価額は毎日決められた時限に算出しなければならないので、短時間で時価を計算するための作業はばかになりません。時価を計算するためのシステム投資や人件費は大きなコスト増になるわけです。
また、毎日取引ができるということは、急な解約に備えた資金の手当が必要になり、運用しないで残しておくキャッシュが必要になります。運用しない資産の比率が高くなれば、その分、運用利回りが低下します。想定以上の解約が発生した場合、マーケットから資金を調達することになるかもしれません。場合によっては借り入れによる金利を負担することになります。
公募投信のように毎日時価を算出して、毎日取引ができるようにすることは、投資家にとって便利である反面、相応のコスト負担を強いられます。基準価額を算出するための人件費や、時価の計算のためのシステムにかかる費用はすべて運用コストとして、運用パフォーマンスに跳ね返ってきます。時価評価のコストが運用パフォーマンスに直結するわけです。
ヘッジファンドは、長期運用を原則する金融商品であり、毎日時価を計算しないのはそうしたコストをかけないためです。今日はどれくらい儲かった、損したなんて知らなくてもいいと割り切れる投資家向けの金融商品というわけです。通常、ヘッジファンドは月次で運用パフォーマンスを知ることになります。
ヘッジファンドの評価額
ヘッジファンドは日次での時価評価をしませんが、通常、毎月1度、月末時点の時価を正確に計算します。通常、ヘッジファンドは毎月1度、ニューマネーを受け入れるため、正確に単価を計算する必要があるわけです。1株(投資信託の1口にあたります)あたりの単価を算出するに純資産額を計算して発行している株数で割るわけです。10万米ドルで投資を始めた場合、何株を受け取れるか、換算レートを正確に算出する必要があるわけです。この換算レートは投資信託で基準価額と呼ばれるものです。
公募投信では、慣習というか、共通のルールがあり、取引単位を“口数”と呼び、基準価額はファンド1万口あたりの値段で表示します。運用を開始する時は1口=1円とするので、最初の基準価額は1万円です。基準価額が1万円以上になっているファンドは、運用開始からプラスで推移しているな、1万円を割り込んでいるファンドは、運用開始以来、どこかでマイナスななったなと予想されます。
基準価額が高いファンドは運用がうまくいっていそうだから買おう。基準価額が安いファンドは当初1万円で売られていたものを安く買えるから得だ。どちらにしても、勝手な理屈で買い材料にしてしまうセールスを受けることが多いです。
ヘッジファンドはルールや慣例が統一されていないために、価格がわかりにくい面があります。一般的に投資の単価にあたる値段をNAVと言います。NAVは「ナブ」と読んで、Net Asset Value (=純資産額)の略称です。しかしながらNAVは、NAV per share(=一株当たりの純資産額)の意味で使われることが多く、NAV=投資信託の基準価額と覚えましょう。
NAVとは別に、ファンドの規模を表す用語としてAUMも覚えておきましょう、AUMは「エーユーエム」と読み、Asset Under Management (=運用資産総額)の略称です。こちらは1株当たりの価格として使われることはなく、純資産に対する総資産の概念で使われます。ファンドの規模や運用会社の規模を比較する時に使われます。
(AUM)=(開始時点のAUM)+(新規顧客からの預り金)-(顧客の引き出し金額)±(運用パフォーマンスによる増減)
日本の公募投信の基準価額がすべて1万円から始まることで統一されていますが、NAVの絶対水準はバラバラなので、NAVを示されても、これまでの運用のパフォーマンスを予想するのは難しいです。そのため、ヘッジファンドでは月次の運用利回りと年初来の運用利回りでパフォーマンスが示されることが多いです。また、ファンドの設定来の利回りが〇年〇か月で +●%というような表記です。
ヘッジファンドの運用パフォーマンスに関しましては、私募の金融商品であるため、勧誘行為とみなされることから具体的なファンド名と利率を伝えることができません。ご関心がある方は、当社、または当社のヘッジファンドを取り扱うIFA(Independent Financial Advisor、金融商品仲介業者)までご連絡ください。
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