【用語解説】レラティブバリューとは

ヘッジファンドの専門用語

 これまでヘッジファンドと投資信託の違いについての説明をしてきましたが、これからしばらくは、ヘッジファンドを理解するために必要となる専門用語について、できるだけわかりやすく、できるだけ詳しく説明していきます。ここで用語解説を行う専門用語を一通り理解すれば、ヘッジファンドの本質である運用方法や投資戦略が理解しやすくなると考えています。
 ヘッジファンドという金融商品の難しさは、カタカナ言葉が多くて、外国語の勉強みたいになっていることも原因だと考えています。よくわからないカタカナ言葉を使って説明されても、本質が理解できないことはよくある話です。
 ヘッジファンドは、高度な運用手法によって利益を追求する金融商品ですが、利益を生み出す源泉が何なのか、どうやって利益が生み出されるのかを理解すれば、ヘッジファンドに限らない投資の基本についても理解が深まると考えます。しばらくの間、ヘッジファンドの専門用語について考えていきましょう。
 
 最初の用語は、“レラティブバリュー”です。もとの英語は“relative value”で、RVとアルファベット2文字で略す人もいます。英語の読み方で“リラティブバリュー”と記載されることもあります。この言葉は、ヘッジファンドの代表的な運用方法、運用戦略を表わす言葉で、たいへんに重要です。わかりやすい漢字に置き換えずに、カタカナ表記にしたことで、本来の意味がわからないまま使っている人も多いようです。
 まずは、“レラティブ(relative)”という形容詞について考えましょう。「相対的な」と訳されることが多い単語ですが、本来は「関係(リレーション)をもっている、関係している」という意味の形容詞です。ここで大事なのは、何との関係であるかです。関係する相手方は、フェアバリュー(fair value)です。
 フェアバリューは、直訳すると「公正価値」で、「理論値」と置き換える人もいたりします。実は、フェアという言葉に「優れた」とか「良い」というニュアンスはありません。「フェアプレイ」は必ずしも「ファインプレイ」を意味するわけではなく、「悪いことや、ずるいことをしない普通のプレイ」をすればよかったりします。つまり、フェアバリューは「理論値」のような、あるべき値を意味しているわけではなく、「妥当な値」、「通常の値」くらいの意味で考えた方がいいと思います。
 つまり“レラティブバリュー”とは、「妥当な値・通常の値と関係性がある価値」というのが、本来の意味です。つまり、「通常の、本来あるべき水準の価格から、何らかの事情・理由によってはずれたところ、乖離した水準になっている価値」くらいに考えるのがよいと思います。
 そうした意味を理解すると、“レラティブバリュー”の本来の意味に近い言葉は「相関価値」かなと思うのですが、日本のヘッジファンド業界では使われない言い方なので、“レラティブバリュー”をそのまま使うことにします。

レラティブバリュー取引とは

 レラティブバリューのイメージが分かったところで、レラティブバリュー取引(relative value trading)について考えてみましょう。レラティブバリュー取引といって、どんなことをするのか、イメージが浮かぶ人はあまり多くないのではと思います。ここでは、取引のイメージが近い「バリュー株投資」によって理解しましょう。
 「バリュー株」とは、“株価が割安になっている株式”のことで、「グロース株(高い成長性が期待される株式)」とセットで説明されることが多い金融用語です。つまり、「バリュー株投資」とは「現在の株価以上の“価値”があると考えられる割安な株式」を選別して投資する手法です。
 「バリュー株」は、何らかの事情があって割安な株価になっている株式に投資することで、将来、割安になる事情が解消されて、本来、持っている価値の株価に上昇することを期待する投資です。割安な株価の事情が解消するのに、数か月、場合によっては数年の期間が必要になることがあります。
 バリュー株投資で気をつけなければいけないことは、割安な株式が本来の価値の株価になる前に、株式相場全体が下落するリスクがあることです。相場全体が大きく値を下げる局面においては、損失が発生するリスクがあるわけです。他の株式に比べて、下げ幅が小さく、損失が少なかった…ということでは、あまり喜べないというわけです。 
 そこで、レラティブバリュー取引では、割安な株式を買うだけではなく、割高な株式を売るポジションも組み合わせます。割高な株式の空売り(「からうり」、信用取引の売り)も行うわけです。買いポジションと売りポジションの量を等しくすれば、次に説明する「マーケットニュートラル」取引になるのですが、レラティブバリュー取引では、買いと売りを等しくする必要はありません。相場全体が上がる相場観であれば、割安株の買いを多くします。逆に、相場全体が下がる相場観であれば、割高株の売りを多くする取引です。
 ヘッジファンドのレラティブバリュー取引では、幅広い金融商品も投資に組み込むことができます。株式の現物だけでなく、転換社債やワラント(新株予約券)、有価証券オプションなどのデリバティブ(金派生商品)も含めて割安、割高な資産を選びます。レラティブバリュー取引では、幅広い投資対象の金融資産のフェアバリューを計算して、フェアバリューより安い資産を買い、フェアバリューより高い資産を売ることを組み合わせて、利益を追求するわけです。 

レラティブバリュー戦略とは

 レラティブバリュー戦略は、レラティブバリュー取引によって利益を追求する戦略ですが、割安な資産と割高な資産をどのように組み合わせるかで、様々な戦略があります。「裁定取引」は、レラティブバリュー取引の代表的な取引手法です。改めて用語解説をしますが、裁定取引というのは、売りと買いを組み合わせて確実に利益を上げることを目指す取引です。裁定取引はアービトラージ取引(“arbitrage trading”であるため、アーブ取引と略されることもあります)」と記載される方が多いです。
 「アービトラージ取引」は投資対象によって「株式アービトラージ取引」、「債券アービトラージ取引」、「転換社債アービトラージ取引」など、さらに細分化することもできます。また、同一企業の株式と転換社債やワラントを組み合わせる裁定取引もあり、取引手法は様々です。 
  レラティブバリュー戦略の基本は、関連性のある株式の売りと買いを組み合わせる取引となります。例えば、日本の自動車産業で割安なA自動車の株式の買いポジションと、割高なB自動車の株式の売りポジションを組み合わせるような取引も考えられます。日本が米国に輸出する自動車に課される関税が引き上げられれば、基本的に自動車会社の株価は下がる動きをするはずですが、米国に生産工場があるかどうかや、売り上げに占める米国への輸出の比率などを分析することで、一律に売られた自動車株の割安と割高を数値化して売買の判断をします。
 レラティブバリュー戦略では、どのようにして割高と割安を判断するかで、様々な戦略があります。割安と思って買った株式がさらに安くなることもあり得るので、想定外の株価変動リスクをどれくらいまで許容するかなど、リスク管理も重要になります。レラティブバリュー戦略は、ヘッジファンド投資の基本となる考え方なので、理解を深めていきましょう。