【用語解説】マーケットニュートラルとは

“市場に中立”とは?
用語解説の2回目は「マーケットニュートラル」です。英語で書くと、“market neutral”で、「市場に対して中立」と訳されます。最初に、言葉の意味を考えてみましょう。
マーケットはイメージが浮かぶ人が多いと思いますので、「ニュートラル」の方から考えてみましょう。
ボクシングで、ボクサーがダウンすると、レフリーは、倒したボクサーを、赤コーナーでも青コーナーでもない“ニュートラルコーナー”へと促します。“ニュートラル”コーナーは「“中立の”コーナー」を意味していて、自分のコーナーに戻って作戦やアドバイスを受けることがないようにするわけです。
ここで「中立」とは、何を意味するのでしょうか。言葉としては「中間に立つ」ですが、「外部から影響を受けない」という意味の方が適切です。例えば、スイスは永世中立国(permanently neutral country)といわれますが、「将来に渡って他の国から影響を受けない国」というわけです。紛争の和平交渉をする場所として、永世中立国が選ばれるのは“大国から影響を受けない中立の国”なので、和平の交渉を行うのに相応しいとされるからです。
つまり「マーケットニュートラル」とは、「マーケットの影響を受けない(状態)」という意味になります。次に「マーケット」について考えましょう。マーケットは、「金融市場」全般を指しているわけですが、金融市場にもいろいろあります。株式市場、債券市場、短期金融市場、外国為替市場などなど。
マーケットの場所に関しても、ニューヨーク市場、ロンドン市場、東京市場など、金融市場は世界各地にあります。日本で、株安、債券安(長期金利の上昇)、円安が同時に進んだ時、「東京市場がトリプル安!」なんて言われた時代もありました。世界の金融市場は連動してひとつと言われることもありますが、実際には多様なマーケットがあるわけです。
そのため、ヘッジファンドの「マーケットニュートラル」のマーケットが何を指しているかを決めるのは、簡単ではありません。「金融市場の影響を受けない」ようにする場合、株価、金利、外国為替相場など、すべての金融マーケットの影響を受けない状態にするのが理想的ですが、実現するのは極めて難しいです。外国為替の変動に関しては、運用する金融資産の通貨を外貨にしなければ、為替変動リスクを避けられます。金利変動リスクは、住宅ローンを借りる時と同様、ファンドが資金調達する場合などで影響を受けますが、収益にさほど大きな影響を及ぼしません。
そうしたことから、ヘッジファンドにおける「マーケットニュートラル」は、株式市場の変動の影響を受けないと考えることができます。
“株式市場”をどう考えるか
「マーケットニュートラル」の運用は、“株式市場から中立”にすることを目指します。「株式市場」の影響を受けなくするのは簡単ではありません。ヘッジファンドの場合、割安の金融資産を買いって、割高の金融資産を売ることを組み合わせて買いと売りの量が等しくなるようにバランスさせることでマーケットニュートラルにします。残念ながら、投資信託では、売りポジションで収益を追求することができません。売りのポジションは「ヘッジ」することしかできないわけです。
つまりマーケットニュートラルの投資信託では、割安な金融資産を選んで投資するのが収益の源泉で、相場全体の変動をなくすためには、株式全体を売るしかありません。株式全体を売るためには、株価指数(stock price index)の先物の売りや、プットオプション(決められた価格で売る権利)の買いを組み合わせるのが一般的です。
ここで、株価指数についてまとめておきましょう。株価指数について知れば、インデックス運用(パッシブ運用)の理解も深まります。ヘッジファンドの運用からは少し離れますが、「株式市場全体」を表わす“株価指数”とは何なのかについて考えてみましょう。
世界の株式全体を表わす株価指数として一般的に用いられるのは、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」という株価指数で、ヘッジファンドの運用の基準となるベンチマークもこのインデックスを使うことが多いです。「全世界株式」が名称に入っている投資信託も、大体、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスと同じパフォーマンスになることを目指します。
この株価指数は、世界の先進国(23カ国)と新興国(24カ国)の株式を時価総額による加重平均で指数化しています。全世界の主要な株式2,500弱が対象となっていて、略称は「MSCI ACWI」です。MSCIは、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社(Morgan Stanley Capital International Inc.)を表わしています。
尚、途上国を対象外にして先進国の上場企業のみを対象とする指数として「MSCI ワールド」、日本以外の先進国の株式を対象とする「MSCI KOKUSAI」なんていう指標もあるので、株価指数もいろいろです。指数の算出方法についても、時価総額による加重平均であったり、株価の単純平均だったりして、いろいろな指数があります。
株価によっては、100倍以上違うものもあるため、単純に株価をすべて足し合わせて総数で割って平均株価にすればいいというものでもありません。株価指数の算出方法について理解しておくことは重要です。
日本の株価指数は…
株価指数の特徴について考えるため、日本の株価指数を考えてみましょう。日本の株価指数は、日経平均株価指数(Nikkei 225)と東証株価指数(TOPIX、Tokyo Stock Price Index)が代表的です。
日経平均株価指数は、ニュースなどでもよく使われていて「日経平均」と略されます。海外でも“Nikkei 225”という名称で使われています。225銘柄の株価の単純平均で計算され、“円”で表示されます。代表的な企業が選ばれているとはいえ、225銘柄だけで日本の株式市場全体を表わせるのかという議論があります。
また、株価の単純平均で算出されるので、何万円台と単価が高い株式の値動きの影響を受けやすく、何百円台と単価が安い株式の影響はあまり反映しません。
東証株価指数は、東京証券取引所のプライム市場(旧東証1部)に上場している約1,700銘柄の株式が対象となります。指標を構成する銘柄数が多く、時価総額による加重平均によって算出されるため、株式市場全体の動きを反映していると言えます。結果として、時価総額が大きい自動車会社、メガバンク、商社といった大型株(大企業の株価)の変動の影響を受けやすいくなります。
優れた点が多くある一方で、単位が“円”ではなく、1968年1月4日の対象株式の時価総額を100とする「ポイント」表示となっています。「株価」なのに「〇〇ポイント」といわれてもイメージがわかないという人もいます。そのため、経済ニュースなどであまり引用されない現実があります。
日経平均株価指数と東証株価指数に一長一短がある状況で、2025年3月24日に読売株価指数、読売333(よみうりさんさんさん)という新しい株価指数が公表されました。日経平均株価指数だと215銘柄のところを333銘柄に増やして、より株式市場全体の動きを反映するようにしています。
また、すべての構成銘柄を同じ比率で組み入れる「等ウェート型」となっていて、年3回調整を行います。等しいウェイトの単純平均であるため、株価指数の表示が日経平均と同様に“円”表示になっていてイメージをつかみやすいメリットもあります。指数に連動する運用もしやすく「読売333」と連動する投資信託も登場しています。
日経平均株価指数と比較して、値がさ株(株価の水準が高い銘柄)の影響を避けることができ、基本的に333銘柄の株式を同じ金額で買えば株価指数に連動させられる点も便利です。ある意味、“良いとこ取り”の株式指数ですが、「日経平均」並みの知名度になるかどうかは、未知数です。日経平均、TOPIXのように先物取引、オプション取引が上場されるかどうかも株価指数の普及にとって重要でしょう。
やはり投信よりヘッジファンド!
マーケットニュートラルの日本の投資信託ですが、現在のような上昇相場にあって、最高値圏にある状況では、あまり良いパフォーマンスをあげられていないようです。投資信託の基準価額は取引開始時に10,000円で設定されますが、現在、「マーケットニュートラル」がファンド名についている投資信託で、基準価額が1万円を大きく割り込んでいるものが多くみられます。
上げ相場のパフォーマンスは今一歩だけれども、下げ相場で本領を発揮していたのかもしれません。しかしながら、マーケットニュートラルの戦略は、上げ相場でも下げ相場でも利益をあげられる運用のはずなので、期待通りの運用とはなっていないようです。
基本的に割安な株価の「グロース株」を買って「株価指数」を売り、売買量が等しくなるようにする戦略が多いようです。グロース株よりも大型株の値上がり幅が大きくなると運用がマイナスになりやすいです。「手数料が高めのアクティブ運用が、手数料の安いインデックス運用を上回るのが難しい」といわれるのと同じ況になっているのかもしれません。
それに対して、マーケットニュートラルのヘッジファンドでは、割安な銘柄の買いポジションと、割高な銘柄の売りポジションをバランスさせる運用で、売りと買いの両面から利益を追求します。ヘッジファンドも手数料が高い運用ですが、高い手数料を控除しても、上げ相場・下げ相場の両方で安定した収益を実現しています。当社が取り扱っているマーケットニュートラル戦略のヘッジファンドには、昨年までの16年間、年ベースでプラスの運用というファンドもあります。今年もプラスの運用を続けているヘッジファンドについては、以下のリンクをご覧ください。
危機に強い全天候型のファンド はこちら
尚、前回、このブログで市場中立(マーケットニュートラル)型のヘッジファンドの記事を書いたのですが、内容が少し難しかったかもしれません。今回の用語解説を読んだ後に読み返して頂くと理解が深まるかもしれません。あらためて以下の記事もお読み頂けますとありがたいです。
市場中立型のヘッジファンド はこちら
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