柔軟な運用ができるヘッジファンド

運用に制約がある公募投信

 ヘッジファンドと公募投信を比較する場合、運用の自由度、運用に制約があるかないかの違いも重要です。一言でいうと、ヘッジファンドは上げ相場や下げ相場に応じて柔軟な運用が可能であるのに対して、公募投信は基本的に買いポジションの組み合わせになるため、下げ相場において利益を出すのは難しいでしょう。
 ヘッジファンドは日本において金融商品取引法の規制を受ける金融商品ではありますが、ヘッジファンドを個別に規制する法律はありません。それに対して投資信託は「投資信託及び投資法人に関する法律」があり、投資信託独自の法律によって規制されています。投資信託の運用方法に関しても「投資信託等の運用に関する規則」とその細則があり、運用に関わるルールが細かに定められています。
 投資信託で運用を行うファンドマネジャになるのでなければ、運用に関する規則の細かい所まで理解する必要はないと思います。どのような制約があるかをいくつか挙げると、「有価証券投資の原則」で運用総額の2分の1を超える額を有価証券に投資しなければならないという基本ルールがあります。また。信用取引の売りポジションは純資産総額の範囲内までという制約があります。さらに言うと、現物株式の売買では「マーケットインパクトを最も小さくするよう努める」とされています。
 投資対象に関して、株式は金融商品取引所又は外国金融商品市場に上場されているか、一定の開示が行われている未上場株という制約があります。投資信託証券を組み入れる場合は、当該投資信託財産の純資産総額の5%を超えてはならないという制約があります。その他にも外国為替予約はヘッジ目的に限るとか、デリバティブ取引等は純資産総額を超えないように等々、健全な運用を求めるルールが多くあります。
 「信用リスク集中回避のための投資制限」という項目では「株式等エクスポージャー」、「債券等エクスポージャー」、「デリバティブ等エクスポージャー」の制限があります。エクスポージャーという言葉は、聞きなれない人が多いと思いますが、簡単に言うとリスクにさらされている量です。
 今回の本題から少しはずれますが、“エクスポージャー”について説明します。“エクスポージャー”は、「(リスクなどに)さらされること」を意味するExposureを、日本語に置き換えずにカタカナ読みした金融用語です。リスク管理をする上で重要な言葉で、簡単に言うと、どれくらい損失が発生するリスクがあるかの量です。損失金額で表わされたり、元本額に対して発生する損失の比率で表わされたりします。金融商品のリスクは、価格変動リスクや為替変動リスク、信用リスク(倒産リスク)など様々なものがあり、エクスポージャーという数値で表すことができると便利なわけです。 

ヘッジファンドは柔軟な運用が可能です。

 以前、このブログでヘッジファンドは、マーケットニュートラル(市場中立型)の絶対収益を追求する運用ができることを説明しました。買いポジションと売りポジションが等しくなるように組み合わせて、相場全体の上げ下げの影響を受けないようにしながら、割安な銘柄を買って割高な銘柄を売ることで、上げ相場でも下げ相場でも利益を上げることを目指す運用です。

市場中立型のヘッジファンド についての記事はこちら

 投資信託には上で書いた制約があるため、マーケットニュートラルの運用で絶対収益を追求することは難しいです。上げ相場でも下げ相場でも利益が出るようにするためには、相場環境に応じてショート(売り)ポジションを優勢にするタイミングも必要になりますが、投資信託では運用に関する規則よって、市場中立型にして利益を追求することができないわけです。
 ヘッジファンドの運用は、場合によってマーケットインパクトを起こすことで利益を上げようとする戦略もあります。金融市場は、時として歪みが生じる不完全なマーケットです。様々な事情によりマーケットに歪みが発生している場合、そうした歪みが正常に戻るようにインパクトを与えて正常な状態に戻すことによって利益を得る取引もあります。
 詳しくはヘッジファンドの歴史のところで説明したいと思いますが、1992年9月の英ポンド危機では、英ポンドが本来あるべきレートより高い水準で取引されていました。ジョージソロス氏が率いるヘッジファンドは大量の英ポンド売りを仕掛けました。イングランド銀行はポンド買いの市場介入を行い、公定歩合を10%から12%に引き上げ、さらに15%に引き上げましたが、固定したいレートを維持できなくなりました。
 当時の英ポンドは、ヨーロッパにおける統一通貨を展望して欧州為替相場メカニズム(European Exchange Rate Mechanism、略してERM)のもとで、ドイツマルク(懐かしい言葉です。若い人は、この通貨があったことを知らないかもしれません)に対して決められたレートの上下2.25%の範囲に収めなければならないルールがありました。為替レートを現在の水準に維持することは不可能と考えたヘッジファンドは、多額の英ポンドの売りを行い、英ポンドがERM で決められた範囲内を維持できなくなってERMからの離脱を余儀なくされたわけです。
 そのような市場インパクトを及ぼすことがいいとは限りませんが、ヘッジファンドは柔軟な運用ができたことで、大きな利益を上げられたわけです。 
 ヘッジファンドは規制が少ないため、自由に売買ができることにより、マーケットにインパクトをもたらして利益を上げられたともいえるわけです。

ヘッジファンドはファッション

 ヘッジファンドの運用手法に関しては、今後、詳しく説明していきます。今回は投資信託と比較して自由で柔軟な運用ができることを言うにとどめます。ヘッジファンドは法律等で縛られる制約が少ないことで、自由な運用ができ、利益を追求できるのですが、一方で大きなリスクを伴う危険もあります。
 誤解を招くかもしれない悪い例えかもしれませんが、投資信託は「制服のある学校」、ヘッジファンドは「私服の学校」と考えてみてください。「かっこいい制服」「名門校の制服」だと毎日学校に行くのが楽しくなるかもしれません。逆に「いけてない制服」だと沈んだ気持ちで通学しなければならないかもしれません。
 私服の学校の場合、ファッションセンスが問われます。洋服選びに苦労することも多く「制服があったら楽でいいのに」なんて思うこともあるでしょう。私服だと洋服選びがたいへんですが、「友達からセンスがいいね!」なんてほめられると嬉しいでしょう。私服の場合、ファッションに無頓着な学生を除いて、洋服代にお金がかかるかもしれません。(ヘッジファンドも手数料が高いなんて言われることもあります。)しかしながら、私服の学校に通うことでファッションセンスが磨かれることもあるでしょう。ファッションを通じて個性を主張することもできるわけです。
 資産運用をファッションに置き換えてみましょう。ファッションは、みんなと同じ無難な洋服を着たいと思う人もいれば、個性的な洋服を着たい人もいます。資産運用もみんながやっている運用で良いと考えるのもありだし、自分はセンスがあるから個性を主張したいと思うのもありでしょう。幅広い選択肢があるのはいいことだけど、ファッションセンスを磨いて、リスクに備えることが必要になります。
 ヘッジファンドは、自由な運用ができる反面、自己責任の度合いが高い運用なので、いろいろと知識を学ばないといけません。ファッションに比べれば、運用結果は利回りなどの数値で表されるので、評価はしやすいとも言えます。ファッション雑誌を読んだり、ファッションセンスの良い人を見つけてお手本にするなんて努力も必要です。ヘッジファンドの基本的な知識を身に着けて、ヘッジファンド・デビューしてみてはいかがでしょう。
 ヘッジファンドという新しいファッションに挑戦したいと考える方は、是非、エアーズシー証券までお問い合わせください。世界で著名な、最先端のヘッジファンドを選ぶお手伝いをさせて頂けますとこの上ない喜びです。